お次は船です。漁協に監視船のような小さい船があって、せっかく作ったのに引き上げていて使わないので、「おれに、貸せや」って借りてみたら、使っていない船だったので、エンジンが壊れていて使い物にならなかった。「しょうがねぇなぁ」って時に、今度は船に乗るのに免許が必要になるって情報が入ったんです。それまで、ただ船に乗ってる分には免許なんていらなかったのが、「これからは免許が必要になるぞ」って、参事さんが、一緒に飲んだ時に言うんです。
それで、自分でも調べたら、5t以上の船に、ある期間乗った経験があれば1級の資格が発生するってことがわかったんです。しかし、歌津で漁師の半分以上は5t以上の船に乗ったことがない。歌津には5t以上の船がない。自分で浜に引き上げるから、大きくても3~4t。大きな船は造らなかったんです。「だったら自分が造ればいいか!? じゃあ、作ろう」って。事務の手続きは参事さんに頼んだんですが、できてきた書類を見たら7tってなってる!! 「なんでこんな、大きいの、面倒くさい」って思ったけど、「まあ、いいや」ってなって、自分で借金して造りました。
昔は、船を作るなんていったら、大変なものでした。3日3晩お酒をふるまってね。船は、船を作る船大工にお願いするんです。夜中に神様っていうか船への「御神入れ(ごしんいれ)」をするんです。三島神社ではなくて、大工さんがします。「御神入れ」は、昔から夜です。夜誰もいないときにやるんです。船で。船を作ってる大工さんがね、1番船の先っちょの、ロープ結わえる柱みたいなところに穴を掘って、そこに入れて、また、ピタンと蓋をするんです。何を入れたのかは、誰も見たことがない。そこにあるのはわかってるけど、何が入っているのかはわからないんです。うちの船を作る時も、やっぱり見なかったですね。船大工は、ふつうの大工とは違います。今もいるだろうけれど、船の材料が違ってきてるから、今は「御神入れ」なんてことはしないと思います。
船が完成したら、みんなでお餅を撒いてね。みんな酒を飲んでもらって、その代りに、旗を作ってもらうんです。船名旗と日の丸は自分で用意して、大漁旗は作ってもらいます。船に旗を揚げる時は、一番上が日の丸ね、その下が船名旗ね。歌津には田束山(たつがねやま)って山があるので、その名前をもらって「田束丸」というのが船名です。船名旗の下は、いただいた大漁旗です。大漁旗にはそれぞれ旗を作ってくれた方の名前が入っています。
そうして、小型船舶の免許、小型船舶1級の資格を取りました。
「海は俺の金庫だ!」橋田 久さん(仮名)
[宮城県本吉郡南三陸町歌津泊浜]昭和22(1947)年生まれ
投稿日:2012.01.01
カテゴリー:キーワード.
大漁旗, 小型船舶免許, 御神入れ, 歌津, 船名旗, 船大工, 造船
© 2012 東日本大震災 RQ聞き書きプロジェクト 「自分史」公開サイト. All Rights Reserved.