うちの船長さんは時化の時は「海の方が安全だから船を沖に出すよ」って、もう台風みたいな時も船を沖に出すわけです。そうすると、船首を、波の来る方と風の来る方に向けるわけですよ。船首が下向くと、東京スカイツリーみたいな波が来るわけよ。ダ・ダ・ダ・ダーンって。見上げるどころじゃないんです。
船の重さが何万トンあっても同じです。常に風の来る方、波の方向に船首を立てて、スピードを普通大体15~6は出るんだけども、常に半分くらい、5ノット位に抑えて。これ、横に波食らったら、45度以上傾いたら船は終わりだからね。
船頭さんてのは、マグロ獲る延縄のコースを決める人です。何時から何時まで操業して、最初に昼間に網を上げる分は船速何ノットで「深縄」にしてとか、夜は「浅縄」にしてとか、采配を振るう人。これができる人が魚獲れるわけです。マグロ船というのは情報戦なんです。船頭さんが、漁船のピラミッドの頂点、会社と同じ、会社のトップと同じなんですよ。船長さんより偉いんだよ。これは普通の商船だったら、船長さんが1番偉いけども、漁船の場合は船頭さん。
漁師は「獲ってなんぼ」の世界だから。マグロの場合は、マグロ追いかけては、どこでも行くもの。船を修理すると言って、リスボン(ポルトガル)に寄港したり。うまくいけば地中海の黒マグロなんか、1年で十何億もの売り上げになるんですよ。15歳の、乗組員の中で1番のペーペーで年収2000万にもなるんですよ。だけども、仕事覚えないと、それだけもらえない。だから、魚が釣れる所に連れて行ってくれる船頭さまってのは神様です。船頭さんは年収5000万くらいあるわけ。10億円相当の水揚げを上げんだよ。その人の腕次第。釣れる所に連れてってくれる人が1番上の人。
紛争地域に近い海域では、大きなエンジンを積んで、船型もスマートにして、いつでも逃げられるような船型にしてあるんです。操業してて何か来たときは、漁業を捨てても全力で逃げるんです。スクリューも大口径の可変ピッチってやつを積んでましたね。我々乗ってた頃はハイスクリューって丸こい形のものでした。今なんか二重反転プロペラっていう、プロペラが2つついてそれが互いに逆回転するんで、潮を巻き込まないでスムーズにいくというものです。今のスクリューは刀みたいな形だけど、それも角度が切り替わるわけです。車と同じように進歩しているんですよ。
「波は咆えているか」山口道孝さん[宮城県南三陸町歌津伊里前]昭和32(1957)年生まれ
投稿日:2012.01.06
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