9月になると、夜が明けるの待ってキノコ採りに行くんですよ。いろんなキノコ採って、うちに帰って風呂に入ってご飯食ってから出勤だから!(笑)
キノコはね、私は先生ですよ。大体分かるんです。その代わり、本は随分買って勉強しましたよ。足が弱くなった頃から、いつキノコが生えたかというのが分かってきたんです。なぜかというと、お客さんが私のところにキノコの鑑定に持って来るんですよ、「これ(食べられるか)見てくださいって」。
それを見て「生えた」っていうのが分かる(笑)。それから採りに行くわけです。そうなんだよ、みんなみたいにね、早くから探して歩かないんです(笑)。ここは歩かなくても分かるんだもん、ちゃんと鑑定に持ってくるから。キノコっていうのは、普通の人たちは遊びながら行きますが、午前11時頃行っても無いんです。朝、もう夜明けに、きれいに採ってしまった後ですからね。そして採った人は跡を残さない。後から行くと小さなキノコも何にも無いんだから(笑)。だから早く行ってしまわないとだめなんです。
キノコ作りも家の庭先でやってるんですよ。今はヒラタケを植えてるんです。志津川の家は庭が広かったので、ほだ木を買ってきてシイタケ、ヒラタケ、ナメコの3種類、特に、シイタケは200本くらい育てていました。
市販のキノコの株を「スポン」と切ったのを構わないでおくと、うんと大きくなるんです。ナメコだってそうです。小さいのが良いなんて言う人もいるけど美味しくないですね。笠が開いてきた大きなナメコの方が美味しいんです。
我が家ではいろんな種類を育てていたので毎年、お正月ぐらいまでキノコが採れました。早生、中生、遅いのとうまく組み合わせて育てます。ベランダでも簡単にできるんですよ。お正月に食べたかったら、「晩生(おくて)」を買い、うんと早く食べたい時は、「はやて」を買います。種類いろいろあるから、よく調べて。私は生産者から直接注文しています。晩生(おくて)が美味いんですよ。
キノコ採りの季節は9月頃から11月初めまでで、1種類が10日ずつ採れて変わっていく。それを狙って行くんです。
一番先に出るのが、東北原産の「ハタケシメジ」と松茸。
次にアミタケ。それからアケボノ。みんな採って食べてんのはね、「ウラベニホテイシメジ」。毒キノコの「イッポンシメジ」に似ているんです。間違うと、毒キノコを食べてしまいます。
毒キノコのイッポンシメジは傘の開いた成菌のヒダは少し赤みがかった肉色をしているし、柄はスカスカの繊維状。
イッポンシメジは食べると死んでしまいますよ。死ななくても相当の重症です。知らない人たちはね、「イッポンシメジだ」と言って採ってきて食ってますが、本当の名前は「ウラベニホテイシメジ」なんですよ。
ところが、図鑑ってね、何回買っても実物と写真が合わないわけ。色が違ったりね、格好が違ったり。だから私は図鑑を3冊も4冊も買ってみたり、わざわざ仙台まで書籍を探しに行ったりしました。そうやって特徴を覚えたんです。
当時志津川でキノコ栽培してる人がいなかったんです。志津川では、昔は町役場なんかのある付近で採れたんですが、工業団地が造られたから今は生えません。昔は松茸も生えていたんですが、今は、ほとんど採れなくなりました。環境が悪くなったせいでしょう。酸性雨などにやられたんだね。今は強い、本当に酸性雨に強いのが残ったんですね。
銀行にいたときは、とにかく無料サービスばかりしていて暇がありませんでした。私は趣味が多かったから、ある程度はね、暇があったほうが良かったんですが、麻雀は週に1回はやっていたし、囲碁は段を取っていましたし、その上に、こんなふうにキノコ採りもやるんですからね。暇を見つけてはこんな風に採って歩いたから、やっぱり人生はね、忙しい(笑)。
「風の中、土に悠々と立つ──銀行マンの見た登米・志津川」須藤衛作さん(仮名)
[宮城県本吉郡南三陸町志津川]昭和7(1932)年生まれ
投稿日:2012.01.01
カテゴリー:キーワード.
アケボノ, アミタケ, イッポンシメジ, ウラベニホテイシメジ, キノコ, キノコ栽培, シイタケ, ナメコ, ハタケシメジ, ヒラタケ, 工業団地, 志津川, 松茸
© 2012 東日本大震災 RQ聞き書きプロジェクト 「自分史」公開サイト. All Rights Reserved.