文字サイズ |
伊里前は元禄6年に新しい町割りをしてできた町なんです。伊達政宗が領地を62万石もらって、新しく領地になった街道、道路を通して、馬で年貢を運ぶんです。
ところが、仙台の小野から陸前高田までの東浜街道にある、陸前高田、気仙沼、津谷、本吉(志津川)、その間があんまり長すぎて、息が持たないんです。駅があれば、馬に荷物を積んで行って、駅で降ろして、次の荷物を馬に積んで帰ってくることができる。
それで、元禄六年に許可をされて、新しく伊里前に駅ができました。だからここは自然にできた町じゃないんですよ。駅は、浜街道からちょっと離れた海岸に作られました。
駅を作る最低条件って言うのがあるそうで、たとえば品川宿だったら、馬が25頭、それを扱う者が25人、それにお客さんを泊める宿屋が3軒とか。ここには宿屋が何十軒作られて、津波前までは町外れに上町切、下町切(ちょうぎり=町の切れ目)っていうのを示す石碑が立ってました。
帆船時代は、駅のほとんどの人間が宿を営んだりする商人だったと思います。津谷から馬で来て伊里前で荷を積み替えて、という馬中心の伊里前駅ができたというわけです。仙台の殿様が泊まったり、伊能忠敬が泊まって調査やったり、そういう記録があるんですがね。
伊里前を守る人たちが、「ケエヤグ」っていうんだけど、「契約講(けいやくこう)」と言う相互補助の今で言う隣組を作りました。伊里前契約会は隣組の単位を「合」と呼び、8合まであります。それが今まで続いているわけ。「契約講」が明治前に「契約会」になって、今でも77戸が会員です。伊里前には全部で400戸以上ありますが、それ以上入会させないわけです。
というのは、膨大な山があって、何千万という財産があるけれど、会員が増えれば増えるほど、配当金を分けると分け前が少なくなりますからね。それで今までは、お祭りなど行事は全て、契約会主導でやってきたんですが、契約に入ってない人が増えてきたので、町民全部でお祭りをやろうと言うことになりました。
昔は全戸で相互補助ができていたんだけど、どんどん人が増えて行ったからね。伊里前以外の地区では契約会に全員入っているらしいです。例えば、ある自治会では会費など一切取らない。アワビやウニなど、保護地域では開口日以外採ってはいけないのですが、特別に漁をして、収穫物の売り上げで自治会の運営費を賄っているところもあるんですよ。伊里前は特別で、古い契約を保持しています。山もあるし、海もあるし、半農半漁の人が多いんですよ。
契約会は、江戸時代から続くこの地方の相互扶助のような組織です。伊里前契約会は、元禄6(1693)年に歌津の伊里前で先祖が町割をしたときに組織されたといわれます。伊里前は、私の先祖が兄弟3人で作ったんです。牧野家は、志津川の朝日館(あさひたて)と中舘(なかだて)の中間に、牧之内城という城を構えた戦国時代の陸奥領主の武士、葛西家の一族の末裔なんです。兄弟は3人で町を区分し、切り出した山の斜面の山側を上町切(かみちょうぎり)、海側を下町切(しもちょうぎり)としました。ちなみに、牧野家の山から降りてくると役場がありますね。その役場の脇にあった蔵も牧野家のもので、資料置き場としてずっと役場に貸していました。こうした記録は「検立書」に保存されています。
契約会ができた当時は33世帯の組織だったそうです。一時は80世帯までになりましたが、跡継ぎがなかったり移転したりで世帯が抜けて、現在、77世帯になっています。農業より漁業が多く、約7割は漁業ですね。
そのうち74戸が津波で流され、今、残っているのは全部高台の家です。ちなみに、牧野家の本家はうちなんですが、たとえば、私が嫁をもらったら代理で下町切が本家になります。下町切に何かがあれば、今度はうちが本家です。そうして上町切と下町切の家が入れ替わりながら、その役割を果たしてきました。
契約会会員の権利は、家の長男が嫁をもらうと親から引き継ぎます。息子に引き継いだら親は引退で契約会には参加できません。いくら祭りが好きでも、だめ。年寄りは去るんです。こうして代々、新陳代謝を繰り返し、受け継がれてきました。息子がいなかった場合、嫁をもらわなかった場合は、引退せずに、いつまでも会員として参加することができます。しかし、最近は長女の婿も会に入れるようになりました。私の場合は、父親が早くに亡くなったので、一緒に住んでいた叔父が会員になり、私が働くようになってから、別家に出しました。
契約会では10人1組で「期(ごう)」を作り、一期組、二期組…と呼ぶのが習わしです。みんなで旅行に行ったりすると、「おう、組長!」なんて呼び合うものだから、仲居さんが驚いていました(笑)。私も2年くらい、組長を務めました。その時に、魚竜太鼓を作ったり、旅館に泊まったり。県の商工部と交渉してなるべく予算をかけないように工夫もして、宮古や東京ドームへも行きました。
Please use the navigation to move within this section.