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私たち農家のお正月といえば、昔は旧正月に祝ったものです。
お正月の準備は小寒、1月の半ばあたりに、まず凍(し)み豆腐を作ることから始まります。自分たちで育てた豆から、自分の家で作るんです。農家はみな、そうやったんですね、昔は自給自足でしたから。その豆で豆餅や納豆も作るんです。「ツトコ」といって藁で作った容器に入れて作る「ツトコ納豆」です。
それから飴餅です。聞いたことがないでしょう? 今でも、復刻して、道の駅なんかに売ってますよ。この登米郡地域のお正月には欠かせないものです。
飴餅の作り方はこうです。
秋に大麦が発芽してくると、麦芽っていうんですが、それを天日に干して、水に浸して「うるかし(湿らせ)」ます。その芽を使って煮た餅米をふかし、それと合わせて発酵させて、絞って煮詰めて、水飴を作ります。それを餅にからめたのが飴餅。私はそれが好きで、(結婚して登米を離れ)志津川に行っても、お正月には必ず飴餅を作ってる人を聞いて買ってきたものです。
飴餅のレシピについては、NHKの「今日の料理」のサイトに美しい写真入りで紹介があります。
また、飴餅を食べる時にかける、きな粉も自分の家で作ったんですね。きな粉用の豆を大きい鍋で炒って、石臼で挽き、ふるいにかけて作りました。豆は子どもでも挽けましたよ。中学生ぐらいになれば、手伝ったものです。飴餅にそれを混ぜて、食べるんです。うんと甘いんですよ。
そんな風に、私が住んでる志津川町と、登米のほうの餅は違うわけです。志津川の餅はあんこ餅だのクルミ餅だのですが、こちらの方は飴餅とか、あと納豆餅とかになりますね。雑煮はおんなじだけど。
あとちょっと変わった食べ物では、エビ餅っていうのがあるんです。これは、「沼エビ」を使います。今スーパーなどで売られているのは、ほとんどが茨城県の霞ヶ浦で獲れたものです。火の通った状態で売られていますよ。そのエビに醤油をかけて、納豆餅と一緒に食べるんです。
沼エビといえば、この付近はね、昔は「掘」と言って、川の小さいのでエビが獲れたこともありました。しかし、この一帯が改田(かいでん)、つまり全部耕地整理されて、水が流れていた田んぼが干拓されてしまい、水が枯れてしまったんです。だからもう、エビはいないし、ドジョウもいなくなったんですね。子どものころはドジョウを獲りましたよ(笑)。
小さいころからそういう手作りの正月を祝ってきたので、我が家のお正月は、こんな風に登米風に祝うんですよ。
「風の中、土に悠々と立つ──銀行マンの見た登米・志津川」須藤衛作さん(仮名)
[宮城県本吉郡南三陸町志津川]昭和7(1932)年生まれ
子どもの頃の楽しみといえば、やっぱり食べることなんですね。お腹がいつも空いていましたからね。山へ行って、くわご(桑の実の方言)とか、後は、茱萸(ぐみ)を採って食べるのが楽しみでした。
自然の恵みが多いとかそういうことではなくて、子どもの人数が多くて、皆が採るから競争みたいなもんですよ。当時は1クラスが40~50人。3組あって1学年150人くらいでした。
海にも、行きましたよ。潜って、タコを獲ったり・・。
そういうふうに遊んでいると、お腹が空いたり、喉が乾いたりするから、途中の畑に入って大根があれば、ちょっと無断で大根を頂いて食べたりしました。大根はね、土から顔を出している青い部分が甘いんだよ。お天道さまが当たっているところが青くなるでしょう? そこが甘いんです。で、そこを食べると美味しいの。下は辛いから・・。そういう時、犯罪意識とかそんな大げさなことは考えませんでしたね。今とは感覚が違いますね。とにかく、背に腹は代えられないと・・。
品種改良が進んでいないから、野菜なんかも今とは違います。美味しいというのが少し違うと思います。この辺は、梨とかリンゴもあまり無かったね。今は、ドンドン品種改良が進んで、種なしブドウとか出ていますけれど、当時喜んで食べていた物って、今ではあんまり売れないんじゃないかな?
柿は、当時からありました。甘柿と渋柿とありますね? 甘柿というのは、まだ木になっている青いうちから甘いんですよ。だから、そういうのは見逃しません(笑)。1つ無くなり、2つ無くなりしてね・・。その柿の木のある家の人たちの口には、ほとんど入らなかったと思いますよ。
「お正月は、お餅!」って思うだろうけど、お米がある人たちばかりじゃないから、もち米ばっかりじゃなくて、色々なものを混ぜて、豆を入れて豆餅とか、よもぎを混ぜて草餅とか。今は、わざわざそういう物を入れたほうが美味しいなんて言うけどさ。
で、もち米にうるち米(普段食べているご飯のお米)も混ぜるから、粘りのない餅になるんです。焼いても、食べると「ぼっきらぼっきら」って。ウチの弟は、「うる米餅はいらない」なんて言いました。ウチの弟だけじゃないけどね。
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